トマトのブログ

好きなものは好きだと開き直った結果がこれです

先発・石田健大

「先発をやりたい」――石田は、ことあるごとにそれを口にする。

昨年末の契約更改では球団幹部に「先発をやらせてください」と懇願したというのだから、その気持ちがかなり強いものであることに間違いはないだろう。

しかしながら、今の石田に与えられたポジションは“中継ぎ”である。中継ぎの重要性は理解しているし、リリーフでしか味わうことのできない感覚にやりがいも感じている。それが今の自分に求められている役割だということも。それでもなお、「先発でやっていくことがいちばん」だと石田は言う。

石田がそこまで先発にこだわり続ける理由はなにか。

2018年8月28日。そのヒントがこの日にあるのではないかと私は考えている。


石田は8月15日に先発したものの6回5失点。三度目の登録抹消を経て、この日中継ぎとして一軍に復帰することとなる。

試合は1回にソトのホームランで先制、2回に嶺井のタイムリーで2-0とリードを広げるも、先発平良が4回5回と中日打線に捕まり同点。これ以上の失点は許されない――そんな張りつめた空気で迎えた6回表。横浜スタジアムにアポロが鳴り響く。

その瞬間のスタジアムに渦巻いた熱狂がすべてを物語っていたように感じる。“エース”と呼ばれた男の帰還を、誰もが待ちわびていたのだ。ベイスターズには石田の力が必要なのだと信じ続けたファンの姿がそこにはあった。「石田、待ってたぞ」「がんばれ」リリーフカーに乗った石田の背にあちらこちらから声援が降り注いだ。

そんなファンの期待に応えるかのように、石田は完璧なピッチングを魅せる。前の打席でタイムリーを放った福田を三振に打ち取ると、後続の松井、ガルシアも連続三振。7回も平田をサードゴロ、京田をセンターフライ、大島を空振り三振に打ち取る。150キロに迫る力強いストレートと、キレのある変化球。圧巻だった。

「流れ」というものがあるとすれば、石田の気迫溢れるピッチングがチームに良い流れを引き寄せたのではないだろうか。7回裏2アウトの場面で嶺井にソロホームランが飛び出し勝ち越しに成功、その後8回裏にソトの2ランホームランで追加点。ベイスターズが見事勝利を収めた。それは同時に石田に勝ち星がついたことをも意味する。リリーフとしては2勝目、シーズンではようやく3勝目。石田はお立ち台でほっとしたような笑みを浮かべていた。「投げることが幸せ」という言葉通り、横浜スタジアムのマウンドで投げられること、そしてようやく掴んだ勝利の喜びを噛みしめているようにも映った。

この日の勝利を石田は後に「今までの1勝でいちばん嬉しかった」と語る。「何度も同じような光景は目にしているのに、なにかあのときはすごく違ったというか」「今振り返ってみるとそのくらい重い1勝だった」。(FORREAL2019特典映像より)

それだけ、石田は勝利というものを欲していたのだと思う。先発として、エースとして、勝ち星を積み重ねていく。それが石田にとっての喜びなのではないだろうか。高校、大学、そしてプロに入ってからも、石田の中には確かに“エース”としての自覚と矜持があるのだ。

同時に、石田は感謝を忘れない人でもある。中継ぎを経験したことで、自分が今までいかにリリーフ陣に助けられてきたかを実感したのだという。それだけでなく先発で結果を出せないなか中継ぎとして一軍で投げるチャンスを与えてくれた首脳陣、苦しいなかでも声援を送り続けたファンへの感謝もたびたび口にしている。“エース”としてきちんと試合を作ること、そして勝つこと。それが石田なりの恩返しなのではないだろうか。


今の石田に話を戻そう。昨シーズン終了後、石田はまず「良いときの状態に戻す」ことから始めようとしていたのだが、ここでいう「良いとき」とは2016年(特に月間MVPを受賞した5月)を指す。2016年5月は意外にもストレートの最速が144キロ程度でそれほど速いわけではない。それでも打たれなかったのは“キレ”と“ノビ”があったからだろう。今年石田が目指しているのもおそらくそこで、中継ぎ登板ながら未だに150キロを超える球を投げていない。しかしストレートの被打率は.214、被安打数3、被本塁打0と、昨年に比べてかなり改善されている(昨年は被打率.299、被安打数49、被本塁打10)。ストレートだけではない。これまでいわゆる見せ球のような使い方をしてきたカーブが決め球になったり、左バッター中心に投げていたスライダーを右バッターにも投げてみたりと、「良いとき」に戻るだけではない進化を石田は着実に遂げている。そしてその進化はいつか訪れる、先発として、“エース”としての勝利のためにあるのだ。

その日がいつ訪れるのか、あるいは訪れないのかはわからない。それでも信じて待ち続けようと思う。

私は、先発・石田健大が見たい。